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2003年7月
親の思い・子のプレッシャー
学園長 荒井裕司

 夏の甲子園予選が始まった。自分の母校が甲子園にいけるはずもないのだが、何となく気になって結果をみてしまう。特に今年はプロ野球に興味がなくなっているせいかも知れない。そんな時、神奈川県予選での「1年生で四番、本塁打を含む大活躍!」の記事が目にとまった。これだけなら全国に同様の選手がたくさんいるだろう。ところがこの選手は元巨人軍角選手の長男だと報じている。「あれ〜!」私は驚いた。この子とは3〜4年ほど会ってはいないが、楽しくなるようなエピソードがあった。

 6年ほど前のプロ野球開幕戦。巨人対ヤクルト戦を観に行っていた私は、自分達の前の席にいる男の子2人と仲良くなった。巨人のファンらしいが、メガホンも持たず、半分遊んでいるようなのだ。気になった私は「お前たちどっちのファンなんだ。」とたずねると「今年から巨人です。」と言う。
「今年からって…。そんなにコロコロとファンを変えるのはおかしいぞ、ファンならファンらしくしっかり応援しろよ。」と言って私たちのメガフォンを2人にやった。それからは熱の入った応援をし合っていきだんだん仲良くなっていった。
「ところで名前を聞いて無かったなァ。名前を教えてくれョ。」と言うと、「スミ・イッコウです。」と答えた。
「いい名前じゃないか。おまえたちは知らないだろうが、昔巨人にすごいピッチャーがいて、三振をバッタバッタと取ったもんだ。同じ名前なんだよなァ。」しばらく間をおいて「それボクのパパ…。」
「エ〜ッ!」
私はびっくりした。
 その後も楽しく応援を続けながら仲良くなった私達は家族で交流するようになり、PTAの講演会にも参加してもらったり、勉強の世話もするようになった。しかし、中学入試で今の学校に決まってからは顔を見る機会が無くなっていた。

 神奈川県大会は日本一の激戦区といわれる。しかし実力があっても運も味方につけなければ勝ち残れない。父親は名選手だったが、更に天下の名将野村監督の下でコーチをし、その智略とID野球を学んでいる。また無類の陽気さと動物的なカンで天才といわれた長嶋監督の下でコーチをしている。数多くの野球人はいるが、ひまわりと月見草といわれる対称的な2人の下でコーチをしたのはこの父親しかいない。父はサウスポーの投手で息子はキャッチャーというのも面白い。ピッチャーから見た打者の心理は父から、ピッチャーに対する打者への対応は長嶋監督から、またキャッチャーの心理や読みは野村監督から学んだものを伝えてやれる。世間一般から見るととてつもなく多くの情報が集まり恵まれた環境といえる。しかし親子というのはそう額面通りにことがうまく運ぶのだろうか。

 世の中で親子の関係ほど濃い関係はなく、子どもにとって大変な関係といえる。それはいかなる状況においても絆は太く、切っても切れないつながりだからだ。登進研のセミナーなどの相談でも親子が故にそのプレッシャーで悩み苦しむケースが多い。子に対する親の愛情ははかり知れないし、何を犠牲にしても子のためにという思いは、「自分らしく生きよう」と自立に向かう子供にとっては、やっかいなプレッシャーになったりする。その呪縛から解き放たれたいと思う気持ちが様々な行動となって現れる。子にとっては完成された大人として親がうつる。親が悩み苦しみ、右往左往した若い日々の姿は見ることができないし、親もほとんど見せることはしない。だから、一生懸命努力して今の社会的地位や経済的地位を築いている親の存在はとてつもなく大きく、そして重くのしかかってくる。

 角二世は準決勝で破れ、夢は来年に持ち越された。しかしチームの中での1年で四番というプレッシャーに耐え、また親のプレッシャーに耐え抜いている姿は頼もしい。プロ野球の世界で親子で違ったポジションを守るというのもなかなか珍しいし、親からのプレッシャーをはねのけて活躍する選手が見てみたい。楽しみにしながら来年を待ちたい。

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