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2003年9月
頑張れ!日の丸
学園長 荒井裕司

 アテネオリンピックを来年に控え、各種スポーツの世界選手権が続いている。水泳の北島選手から陸上での室伏選手、体操、更には柔道の田村選手まで数多い日本人選手の活躍で連日ドキドキ、ワクワクだった。表彰式会場に上がる日の丸の国旗はこの時ばかりと輝いて見えた。あらためて日本という国を再認識することのできるシーンだが、こんな時以外は日本を意識する気持ちはなかなか沸いてこない。いかに日本が平和かということだろう。

 政治的に孤立し、全世界から憂慮される北朝鮮だが、各種のスポーツの大会に参加しては話題をふりまいた。特に韓国でのユニバーシアード大会では、応援する美女軍団が世界中のニュースになった。一糸乱れぬ応援とその笑顔は韓国のみならず、世界中の男性から注目の的となったようだが、「作られた笑顔」とか「仮面の笑顔」と各マスコミもそんな論調をはった。柔道の世界選手権で優勝した「ケー・スンヒ」も世界にその国威を見せつけたという意味では英雄として迎えられるだろうが、笑顔に堅さが残った。あの国の「鉄のようなルール」の中で人々は心から笑うこともままならないということを知らされて悲しい気持ちになった。

 ところが一瞬のできごとだったが、私は胸の熱くなるようなシーンを目撃した。それは世界陸上の女子マラソンでのことだ。トップを追う日本人3選手と4位と5位争いをしている北朝鮮のランナーがいた。抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り返しながら、競技場に入ってきた。結果は日本人の選手が4位で、彼女は5位になった。先にゴールをし、日本人選手が彼女のゴールを待っていた。それから少し間をおいて(呼吸を整えさせるという配慮があったように思う)歩み寄って手を差し出した。北朝鮮の選手は急なことで少し戸惑いがあったようだが、それに応え、手を差し出し「ニコッ」と笑顔を見せた。この笑顔はお互いの健闘を称え合うというアスリート達のさわやかな、本心からの笑顔に見えた。拉致問題で大きな社会問題を起こしている北朝鮮の代表選手だからといって、「それとこれとは別よ。友情はすべてを越えるのよ」といわんばかりに握手を求めたこの日本人選手に拍手を送りたい。独裁国家もこんなところから変えていくことができるのではないか。

 政治のカベを越えて「イスラエルとパレスチナの子どもたちがサッカーの親善試合をした」というニュースが8月22日付の日本経済新聞に載っている。これは私の友人やその仲間が数年かけて実現したものだ。和平が遠のく暴力の応酬をどんな思いで受け止めているのか。両国の子どもたちは複雑な思いでパスをまわしたにちがいない。政治的な対立を繰り返し、憎悪し合うイスラエルとパレスチナ両国は、中立的な日本でだからこそ試合が可能になった。「スポーツを通じて互いに認め合い信頼し合うことの大事さをわかってもらいたい」と企画した団体や関係者の「思い」はきっと子どもたちに伝わったにちがいない。

 この親善サッカーの試合に関わった友人に1人息子がいる。23年前、海外派遣のジャーナリストだった彼女が遠くから眺め、思いをはせた日本にちなんで「日の丸」と命名したという。しかし、帰国した日本は想像を越えた理解しがたい国になってしまったという。監禁・誘拐・通り魔・無差別暴力・幼児殺人・麻薬汚染など信じられない事件が続く。「青少年に道徳やマナーをきちんと教える必要がある。命の尊さもわかってもらいたい」と言い、新しい学校のシステムの必要性を説き、実践を始めている。ハーフの「日の丸」君は、凛(りん)として男らしい。母親と協力して全国を飛び回っている。「がんばれ! 日の丸」である。

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