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2004年3月
「サクラ」咲いて命を思う
学園長 荒井裕司

 昨年の12月。ある大学の学長と親しくなった。会う回数が増えるにつれて心が通じ、旧知の仲のようになった。中旬のある日彼が「私の実姉が医者から余命一週間と宣告されたんですが、何とか助けてやりたいんです。」と言ってきた。私が以前から話題を提供していた漢方の話や、私達が取り組んでいる漢方を教える学校の併設の薬局のことを知ってのことだ。彼の姉は76才。白血病(血液のガン)だという。「今私がここでこのようにがんばれるのは姉のお蔭です。だから何としても助けたいのです…。」

 数日後、学院長に会ってもらったらやはり「一週間ほどしか持たないでしょう。」と診断された。しかし、今我々が主催する漢方学会で、ガンに対して著しく効果のある漢方薬が見つかり、その研究をしているところだったため、それを飲んでもらうことになった。学長の実姉は、その漢方薬を飲み始めてから、みるみるうちに体調が良くなったとの電話が入り、迎えることのできないはずだった正月も迎えられ、立春も迎えることになった。担当医は「一体何が起きたんだろう?」と言うようになり、3月の初めには「病院を退院し、車の運転免許を取りに教習所に通い始めました。」という報告さえ受けるようになった。「奇跡が起きて命が蘇った」という彼に、私は、姉を思う気持ちが大きな力に変わったのだと言ってやった。

 今年の2月。私は北九州市で講演をした。市とフリースクールの共催の研修会だった。講演の冒頭に私はいつも歌をうたう。奇をてらうつもりではなく、その地方地方の歌をうたうことで不思議な一体感や親密感が生まれて、なごやかなムードになっていく。仙台では「青葉城恋歌」だったり、日教組の女性部会では「ふるさと」だったり「赤とんぼ」だったりした。この日は「涙そうそう」にした。「古いアルバムめくり、ありがとうってつぶやいた…。いつもいつも胸の中、励ましてくれる人よ…。」歌うにつれ会場からはすすり泣きが聞こえた。

 この日の主催は友人の女性だった。現在「筋ジストロフィー」と闘っている。最愛の夫は昨年3月突然他界した。2人で支え合い、「とびきりの笑顔」と「元気」でがんばり続けて来た。夫が亡きあと一人ではどうにもならないため、市への要請でボランティアスタッフが集まり、今回の研修会となった。「荒井先生お願い!」という電話があり、「どんな協力でもするよ」という即決で、今回の講演会となった。彼女の事情をよく知る人たちが亡き御主人を想い涙ぐんだのだろう。終わったあと、御主人の遺影に、もらったばかりの謝礼をそっと置いた。「先生ありがとう。私はこのフリースクールから今までお給料をもらったこと無かったの。何か給料みたいで嬉しい!」振り返った私に彼女はニコニコしながらお茶を入れてくれていた。両の手で湯のみを押さえおぼつかない足どりでテーブルまで運んできてくれた。目の前の現実に思わず「ハッ」とする。明日をも知れない命を見つめながら、笑顔の毎日。とてつもないエネルギーをもらって私は帰京した。

 あの「9.11」のテロをはじめイラク、イスラエル、パレスチナで連日起こる無差別のテロ。またスペインでの列車爆破事件が追い討ちをかける。無念の死をとげた罪もない人や子どもたちに胸のはりさける思いがする。自爆テロで死んで行くテロリストたちの親や家族だって悲しまないはずはない。

 日本に目を向けても目を覆いたくなる現状だ。親が子を、子が親を殺し合う。恋人を友人をそして幼い子どもまで手にかける。我が子を虐待し殺す。金のために簡単に人を殺し、バラバラにする。倫理も道徳も、人として生きる根幹が崩れ去っている。人類はどうなってしまったのかと疑いたくもなる。またBSE(狂牛病)、鳥インフルエンザにSARSにエイズなどの難病、奇病。おごれる人間の食と健康につきつけられた鋭い刃(やいば)。これが地獄といわず何といえるのか。もう一度、環境問題も含めて「命を思う」原点に立ち返るべきだと思う。

 前述の学長から、戦争を無くすため「平和の大行進」をしようと提案があった。とっさに「是非やりましょう」と答えた。子どもたちや若者たちを中心にイスラエルを歩くというものだ。心に悪魔のはびこるような今の人類にそんなことが効くのかと思う人もいるだろう。「チャンチャラおかしい」と笑う人もいるかも知れない。しかし誰かの一歩が必要なのだと思う。この一歩は教育の分野でも担わなければならないものだろう。スペインの国民全体に広がった「無差別テロに対する抗議の大行進」は世界中に勇気と希望をもたらしてくれた。その輪はもっともっと世界に広がるにちがいない。

 ついに今年も「サクラ」が咲いた。九段や千鳥ヶ渕で見る桜はいつも他とはちがった風情で目に映る。揺れる花びらに時々無念さや淋しさがのぞいたりする。戦争で亡くなった人達(戦犯は除く)の思いはいつまでもあのあたりに残っているのだろう。それでも年に一回桜の花の季節に多くの人たちが集まるのを喜んでくれているのだろう。

 桜は花吹雪で散ってしまう淋しさも、来年もまたきっと咲くという確信の裏付けがあるから納得もいく。だが亡くなった命は永遠に戻らない。命を思い平和を願いたい。そのためにできることはなんでもしたい。

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