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2004年5月
母と母(父)の母
学園長 荒井裕司

 母の日が終わった。いまや世界中に広がりつつあるという、”マザーズディー”だ。国や人種を越えて、老若男女それぞれ母に対する思いは特別なのだろう。かくいう私の母は今年84才。妻の母は88才。ともに元気でいてありがたい。毎年、母の日にはささやかながら感謝の気持ちを伝えるが、2人とも「母の日」は嬉しいらしい。なぜかというと、母の日以外は「おばあちゃん」になってしまっているからだ。それを察知しているつもりで私は、「敬老の日」には知らん顔を決め込んでいる。子どもだって結構、親には気を使っているのだ。

 私は次男のせいか生まれてから、祖母に主に育てられた。世に言う「おばあちゃん子」だ。旅行には必ず連れて行ってもらったり、寝るのも、風呂に入るのも必ず一緒だった。祖母は、機をみては様々なことを私に教えてくれた。時事問題の解説やら歴史上の人物の特徴、哲学的な話、更に性教育まで何気ない顔して教えた。お陰で私は、小学校に上がるころには、かなりませた小学生になっていて、クラスの可愛い子何人かにラブレターをしょっちゅう書いていた。ある朝、カバンの中を清掃しようとした母に見つかり、こっぴどく叱られた。また、「男は自分で独立すること」「苦しい時、辛い時でも我慢を続ければ、必ず道が開ける」「成功するためには逃げるな」等々、男の生き方も教えてくれた。祖母の兄は、「アメリカに行かせてくれなければ切腹する」と言って土蔵に立てこもり、家族を説得し、アメリカに渡った。これがいつも引き合いに出され、私をその気にさせていた。明治の中ごろのアメリカ行きはかなり勇気がいったと今でも思う。私はこの祖母の影響か、「おじいちゃん、おばあちゃん」が大好きになった。理由としては、いつもあっけらかんとして、自然体だからだ。思ったままをストレートに言い、判断をする。日曜日の「さんまのからくりテレビ」に出てくる大工の棟梁が子どもの悩みの相談に答える的確さやユーモアには、思わず笑ってしまったり関心したりする。

 6年程前、知人がホノルルにいることもあって、ハワイを訪ねたことがある。最後の夜、「夜景を見ながらクルージングを」と友人が手配してくれた。乗船時に、80才を過ぎたであろう「おばあちゃん」と会った。実に愛くるしい上品なおばあちゃんだった。船は出航し、食事が出て来てそれが終わるとアトラクションが始まった。かなり大きな船で乗客も満員だった。生バンドがダンス用の曲を流し、ダンスをするカップルも現れた。その時、先ほど会った「おばあちゃん」の娘らしき50代位の女性が私の所にやって来て耳元でささやいた。「大変申し訳ないと思ったんですが、母がどうしてもと言うものですから、無理を承知でお願いに来ました。」と言う。何が起こったのかと思って聞くと、「私達は札幌から家族でやってきました。82才の母は、これが最後だからハワイに行きたいと言うので連れて来ました。今夜が最後の夜で、どうしても、あなたとダンスをしたいと言っています。何とか思いを叶えさせてもらえないでしょうか?」と 言う。私は驚いたが、あのおばあちゃんから声をかけてもらうなんて、光栄なことだと思いうれしくなって「喜んでお相手させてもらいます。私のような者でいいのですか?」と言うと、「是非、あなたと踊りたいと言うのです。」と 言う。私はおばあちゃんの席まで迎えに行き、手をとって、会場の真ん中まで連れて行きダンスを始めた。私達のダンスはぎこちなく、うまいわけではなかったが、会場の参加者全員から大きな拍手と声援を送ってもらった。
 その夜のことは私にとっても一生忘れられない思い出となったのは言うまでもない。この日、札幌のおばあちゃんの勇気と前向きな姿勢に誰もが楽しい時間をもらい、大事なことを学んだ。

 学校教育や家庭教育の改革が求められて久しい。しかし若者による殺傷事件や麻薬にからむ事件が増え続けている。また、無気力で働かない、社会に参加しない若者も激増している。特効薬は見つからないのかも知れないが、おじいちゃんやおばあちゃんの持つすばらしいパワーが、解決の一端をきっと担ってくれるのだろうと思う。核家族化で、おじいちゃんおばあちゃんのパワーが生かせない日本の家族環境なら、地域のおじいちゃん、おばあちゃんの力を借りていけばいい。そういえば代々木にはそんなパワフルな「おじいちゃん、おばあちゃん」がたくさんいる。

「総菜屋の緑の髪のおばあちゃん」
「そば屋の元気なおばあちゃん」
「知的でかわいい文房具屋のおばあちゃん」
「パワフルな電気屋のおばあちゃん」
「優しい花屋のおばあちゃん」
「校舎裏のいつも仲間のように行事に参加してくれるおばあちゃん」

等々だ。いつも我々学園の子供達を見守ってくれているが、エネルギーをもっともっと注入してもらうためにも交流の機会を多くしたい。

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