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2004年10月
恋のゆくえ
学園長 荒井裕司
◆台風の残したもの
 10月にもなってまだ台風がやって来る。しかも大型で、被害も甚大となった。多数の死者や不明者。その大きさや進路がわかるにもかかわらず、対策が打てないのだから悔しさも増す。不本意な思いの犠牲者に心から哀悼の意を表したい。

 私は(子どもたちはみなそうだが)子どものころから台風が大好きだった。学校が休みになることについては言うまでもないが、夜中に吹き荒れる雨風を感じながら、ドキドキする緊張感がたまらなかった。翌日は、近所や学校までの道のりで落ちてはじけている、くるみや、りんごや柿に舌鼓をうった。あの味は格別なのだ。悪ガキだったので、秋になると仲間と一緒に山の畑や路地にある、イチジクやザクロや柿を失敬したことも度々ある。あの時に食べたものにはかなりの罪悪感があった。しかし台風で落とされたものは、「所有権が放棄されたもの」という「暗黙の了解」のようなものがあって、かなりその罪悪感が減っていた。だから余計うまかったのだと思う。

◆南の国の台風対策
 台湾に行った時に、その建物の頑丈さに驚き、その理由を聞いたことがある。「数えきれない程の台風には抵抗のしようがない。だからじっと過ぎ去るのを待つだけです。そのためには、できるだけ鉄筋コンクリートで丈夫な家にする必要があるのです」と教えてもらった。

 今春、生まれて初めて沖縄に行ってびっくりした。建物の形状や建て方が、台湾とそっくりなのだ。南方文化は共通しているのか?と思ったが、尋ねてみると同じように「台風対策」だった。小さな台風も大きな台風も学校は休みになり、バスなどの交通機関も一斉に休みとなるという。落ちてくる看板などの危険性もあるし、また道路も狭く、混み合っている、など離島特有の危険を避けるために休みにしてしまっているのだという。

 この大きな被害をもたらす台風も、「進路さえ変更させることができれば被害も少なくて済むのになあ。」と思った。すると、いい知恵が浮かんだ。「太平洋岸に大きな人工の気圧のカベを作って、南方からやってくる台風をそのカベに添わせて北海道沖まで誘導すればいいんだ。」と考えた。素人の考えながら、そんなことができる訳がないと否定されるだろうナ。とも思う。「○○のカベ」が流行したが、「その辺りかな俺も」と思う反面、実現される日の来ることも願いたい。

◆ITの時代
 今、ニートといわれる働かない若者が増えているといわれる。その数50万人〜100万人ともいわれ、社会現象となっている。またひきこもる若者も同様に多い。地域の崩壊や核家族化に伴うコミュニケーションレス・会話レスの時代のせいとも言われる。社会に参加していても、官庁や企業もパソコン一辺倒の時代だ。このごろ官庁や企業に出かけて行く機会が多い。広く見渡せる職場にいる全員がパソコンと黙々と向かい合っている現実に、「大丈夫なのか?」と冷たいものが背中を走る。ファミリーレストランや、コンビニに行っても「いらっしゃいませ、こんにちは」とマニュアル化されたロボット語のような言葉が一方的に投げかけられる。まわりから見ると会話が成立しているかのように見えるが、まったく成り立ってはいないのだ。コミュニケーションとは、個々のそれぞれが相手を認識し、その場、状況に応じた会話や行動がなされることとするなら、全くコミュニケーションが取れないまま一日が終わることだってある。これでは、ニートと呼ばれるような若者だけを責めるのは筋違いというものだ。もっと血が通って、心を通じ合わせられる環境の整備が必要なのだ。

◆恋の行方
 台風は発生すると、良くも悪くも様々な情報を受けることが可能だ。近くの高気圧や低気圧の加減でその方向や速さもわかる。
 昔の職場はそれに似ていた。電話が鳴ると「どこから来たのか」「どんな内容なのか」「受けた人とどんな関係なのか」などが、その声の大きさや調子などでだいたい判った。新しい恋が芽生えると、周りはそれが順調に育つよう何気なく協力もした。社内恋愛であれば、「遊びだったら承知しないわよ」などというきつい眼も恋の成就に役立ったものだ。だんだんきれいになっていく職員から「そのゴールが間近いこと」も知ったりした。この総IT化の時代、なかなかそうした状況判断の情報が見えなくなった。LANの発達により職員同士ではすべてPCで会話する。昔のように苦労して待ち合わせ場所を伝える必要もなくなっている。もう恋は深く静かに潜航するものと化したのか。しかし、逆に仲間の知らない恋は、大きくもなれないでいるのかも知れない。

 そういえば職場結婚の多い我が学園でも、LANの整備に伴って、恋の行方が見当たらない。「そんな心配は無用ですヨ」という職員がいたが、近いうちに新しいお祝いの報告が届くのだろうか。
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