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2006年9月
ハンカチの色
学園長 荒井裕司

◆ある日の会話
 講演会に向かう朝のこと。「俺は生まれてこの方、『裕ちゃん』だった。向こうの方が後から『佑ちゃん』になったんだよなァ」という私に妻はキョトンとしている。「イヤイヤ、あのさ、今日は暑いからハンカチがいるんだよ。できれば、青いヤツ…。」「ハハハハ〜」妻が笑い出した。理解したようだ。夏の講演会は暑いし、汗かきの私には、ハンカチは大事な武器だ。それを今流に、青いハンカチにしよう。多少つながっている「裕ちゃん」と「佑ちゃん」にひっかけてというものだ。
 いつも「誰かを笑わせたい」「喜んでもらいたい」「楽しんでもらいたい」と思っている私は、エンターテイナーの要素も多少もち合わせているのかも知れない。昔、大まじめで、「歌って踊れる校長を目指します!」などと言っていた時代もあった。
 こんなくだらないギャグで会場は果たして笑ってくれるだろうか。雰囲気をみながら実行しないと、引いてしまってシーンとした会場は盛り上げるのが大変だし…。そうなったら私の得意な「麦畑」を歌って起死回生を狙うしかない。深刻なテーマの講演がほとんどなだけに演出もタイミングが大事だ。そんなことばかり考えていたら、時間が無くなって今回はハンカチを出さずに終わってしまった。ハンカチ勝負は、早稲田実業の斉藤佑樹君には、どんなことをしてもかないっこは無い。

◆現代若者像
 夏の高校野球での早実の優勝は、社会全体に実にさわやかな感動を残した。なかなか実現が難しい文武両道で成果を残したこともある。また、全国民が「何故こんなに悲しい事件ばかり起こす若者が多いのか」と悲観しつづける毎日から救世主のようにさっそうと斉藤君が現れたからでもある。マスクもいいし、礼儀正しいし、体もそれほど大きくもない。日本人の大好きなヒーローにピッタリだったからでもある。よく比較される駒大苫小牧の田中君やボクシングの亀田兄弟とは、同じヒーローでも少し違う。私も斉藤君は大好きだ。こじつけもはなはだしいが、同じ「ゆうちゃん」仲間でもあるが、やはり前述のいくつかの理由と重なるからだ。しかし、田中君も大好きだ。彼の強い精神力や前向きなファイトや計り知れないエネルギーは、特筆すべきものだ。亀田三兄弟だって、多少マスコミ用の言動は気になるところだが、儒教の教えの申し子のように、父親や家族との絆を大事にし、どこか憎めない優しさに満ちている。音をたてて崩れていく日本の若者のイメージを、必死になって支えてくれているようにさえ思う。失望に近いため息の毎日だけれど、こんな若者たちがまだしっかり残っているんだと希望を感じさせてくれた。

◆寅さん、アッピールする。
 何十年も前に見た山田洋次監督の「幸せの黄色いハンカチ」には、とても感動した。あれが黄色でなくて青だったらどうだろうかと思う。青になったからといって、別に感動は消えてなくなるものではないが、やっぱりあそこは黄色がいい。山田監督が、何色かの中から「やっぱり黄色がいい」と決めた理由は、あの映画に合っていて、観客の心を動かす色だったんだろうと思う。
 本学園の十周年の折、山田監督をお呼びして講演会を開いた。私は当日寸劇をやろうと脚本を書いて監督に見てもらったら、監督は楽しそうに笑って言ってくれた。「これはおもしろい。当日の演出は私がやるよ」と。内容は次のようなものだった。“寅さん”が柴又に帰ってくることになった。電話を入れて、「私の帰還を歓迎して欲しい。その折、あのお寺の屋根から黄色いハンカチのパレードをして欲しい」「バカモン、そんなことできるか!」と和尚は相手にしない。寅さんの哀願は続き、その日を迎える。柴又に帰った寅さんは、遠くからハンカチのパレードを見つける。大喜びで寺に向かってみると、赤いハンカチのパレードだったことに気付く。「なんで黄色じゃなくて赤なんだ!」怒りをあらわに寅さんは和尚に尋ねると、和尚はすました顔で、「寅よ、そんなこともわからんのか、黄色は注意!赤は進入禁止だろう!」
 「寅さんが生きていたら、私はこれをやりたかった」という山田監督に親しみを持ち、今でも尊敬してやまない。その風貌が似ていると言われることもこの上ない喜びだ。先日旅行をした仲間から、いつの間にか「山田監督」というあだ名がついた。あのさくら国際の賛同人として心強い支援をいただいていて、それも感謝だ。
 白いハンカチも、赤いハンカチも、木綿のハンカチもいろいろあるが、若くてはつらつとした斉藤君には、やっぱり青いハンカチがよく似合う。

◆あなたのハンカチは何色ですか?
 全国大会に出場したサッカー部は、不運もあり、2回戦で前年準優勝校に敗れた。しかしその後、秋の北信越五県大会では、見事に優勝した。1回戦は2対2のあとのPK戦で、新潟の強豪、明鏡高校に勝った。野球部が「もう一つの甲子園」への決勝戦で、サヨナラ逆転負けで敗れた相手校だ。野球部の借りをサッカー部が返した格好だ。2回戦は5対1で圧勝。決勝は前年度優勝校、開志学園高校に5対0で快勝した。秋の気配の感じる金沢の町に「さくら」のウエアがキラキラ輝いたことだろうし、子どもたちの達成感は最高潮だっただろう。今まであまり得たことのない不思議な快感だったにちがいない。同じ思いを共有できる私達も幸せ感で一杯だ。

 彼らが身につけていたウエアは真っ赤だった。彼らに似合うハンカチは何色がいいのか。ハンカチ調査はしていないが、きっとそれぞれが自分に似合うハンカチを持っていたにちがいない。

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