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2007年3月
旅立ちの春
学園長 荒井裕司

◆季節はめぐる
 この3月、私は今年も数多く卒業式に参加した。どこにでても、何度でても卒業式はいいものだと思う。卒業する子どもたちに、自分を重ねて素直に共感できるからだ。
「過去を変えることはできない。でもこれから作っていく過去は変えていくことができる」とはあるサッカーチームの監督の言葉だ。敗れた自分のチームの子どもたちへの最後の言葉だが、前向きでとてもいい。卒業式では必ず過去をふり返る。どだい何もかもうまくいっているはずはなく、悩んだり、苦しんだり、トラブったり、ケンカしたりばかりだ。しかしそれらが卒業式では共有でき、良い思い出にかわる。だからみんなの心を揺らし、同じ思いに涙は自然にあふれてくる。

◆感動の 理由[ワケ]
 東京国際学園の卒業式で感動するのは、子どもたちも保護者たちも「卒業できる喜び」を実感できるからだ。一人一人が呼名される生徒たちの中にあって、空席の子どもたちもチラホラ。卒業式に参加したい思いで一杯なのに、参加できない悔しさでこの日を迎えている子どもたちだ。参加している生徒たちも「少し前まで自分もそうだった」「人とも関われずに部屋に閉じこもっていた」と自分を重ねてしまう。今、自立の道を歩み始めて、あらためて鮮明になる自分の姿。その空席を心配そうに見つめる人たちに、「大丈夫、心配ありません。この子たちも大きな成長のステップを踏み、もう間もなく自立できます。今そのエネルギーを蓄えているところです」と伝えずにはいられない。
 式は進行し、生徒たち大きな声で歌った「ありがとう」にもうっすら浮かんだ涙。一同が振り返って保護者席への「ありがとう!」に色とりどりのハンカチは一面に動く。答辞は自らの不登校の体験と心の動きを克明に表現してまた涙。「不登校」は子どもたちたけの問題ではなく、我々大人や、社会や課程の自分勝手さに起因するものでもあると痛切に反省させられる。
 「心を洗い直させてもらいました」「いつも感動させてもらいます」などと言いながら、来賓たちも帰っていく。多忙な毎日の中、時間を割いて来て下さり、支援をしてくださる多くの皆様に今年も最敬礼!

◆地域とともに咲くさくら
 一週間後。雪花の舞うさくら国際の卒業式。卒業生8名。すき間だらけ、寒風素通りの体育館。寒さに震えながら地域の人たちが大勢参加してくれた。地域の保育園年長さんたちが、2人ずつ1人の卒業生をエスコート。園児たちの嬉しそうな顔と卒業生の照れくさそうな顔が開場の雰囲気を変える。送辞は、この大役をさせることで大きく成長させたいと願う1年生2人。式歌は女子生徒2人のギターによる「仰げば尊し」。手作りで、地域が共催の、それでいて感動的な卒業式となった。感動の本番は、その後にあった。私たちは卒業する3年生のホームルームを参加者全員に見ていただいた。
 ホームルームが始まった。成績表や記念品を手渡し、事務的な仕事は終わる。担任は一人一人に語りかける。「A君、あなたは入学した時から、ずっと下を向いて、少しもしゃべらなかったよね。声かけても返事もなかった…。」 「ウン。」 「あなたは、自分の記憶は夏休み前まで全くないって言ってたけどあれ、本当?」 「…。本当です。前に学校でいじめられ、逃げるようにやって来ました。同じようなことが起こらないように願っていました。どんなことにも関心を持たず、人と関わらず、無表情を装いました…。だから記憶がなかったのです。」 「それじゃさあ、8月以降、つまり4月に入学して4ヶ月経ってから、記憶が生まれて来たということ?」 「ここ(さくら国際)は大丈夫だと感ずるようになって、私という人間が息をし出したんです。みんなの声かけにも答えられるようになった。先生とも話ができるようになって…。記憶がよみがえって来ました。」 「よかったねぇ。今日の答辞だってすばらしかったよ。」
「ハイ、ありがとうございます。」
 「Bさん!あなたとは短い間だったけど、卒業できてよかったネ。」 「ハイ!」 閉じこもり続けていて今年20歳を超える。 「本当に嬉しいです!」 笑顔はそのつらさが大きかったからか晴ればれとしている。
「C君、あなたは遠いところからやって来て下宿の生活大変だったね。」 「長野は寒くて辛かったけど、さくら国際は本当に温かかったです。」と卒業式にみんなの前で名言を披露したC君。国立大学の医学部の合格発表を待っている。「イジメの施風を嫌ってここにやって来たけど、こんな学校ならもっといたかった。1年ではもったいない。」と言う。
「D君は、みんなと仲良くなるためにって、いろいろなことを初めてくれたね。野球にサッカーにバスケット、卓球。あなたのおかげでみんなの心が日撮るになっていった。感謝するワ。」 「先生、違う。俺は人間関係に傷ついていた。あんまり突っ込んで、もう人と関わりたくないと思った。勉強をすることだけを目標にしたけど、ここで本当に心を開いて人と接することができた。だから何でもみんなと一生懸命にやれたんだ。」いままで泣いたことの無いD君は、顔をクシャクシャにしながら泣いている。担任ももう言葉にならない。子どもたちもみんな泣いている。子どもたちの閉じこもっていた心を開いたのは他でもない、子どもたち同士だった。教室にあふれんばかりの保護者や来賓たちも、目を真っ赤にして泣いている。「卒業式もすばらしかったが、あのホームルームで私たちは『感動のきわみ』を体験した。ありがとう。」こんなコメントを残して市長は帰っていった。

 旅立ちは間違いなく子どもたちを成長させている。

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