◆新宿物語
6月17日(日)。東京ギンガ堂の公演が終った。15周年記念行事の一つとして生徒たちにも参加してもらったが、成果はどうだっただろうか。製作発表の日からけい古けい古の毎日。更にオールキャストによる連日のリハーサル。そして10日間の本番。子どもたちにとっては初めてのプロの集団との共演。学ぶところは全てだっただろう。表に立って演ずる役者たちの他に、裏方といわれる美術や音楽、大道具、小道具、チケットの販売から渉外、広報、当日の受付やお客様への対応、送り迎えに至るまで、気の抜けないチームワーク。テレビや舞台でも良く見かける人たちだが、みんな自分の役柄やポジションをしっかりわきまえ、出しゃばらず、それでいてしっかりアピールする姿。演劇が好き、ダンスが好きという子どもたちだが、プロの世界の厳しさを垣間見て、震えるぐらいに感じ取ったにちがいない。その場にいただけで、教えられる毎日だっただろう。それだけに生徒たちには「耐えてよくがんばったね。」と言ってやりたい。私の知り合いにも“演劇大好き人間”がいる。だがとても演劇だけでは食べていくことができず、あらゆる所で働いている。この下積みの苦しさを経験しているだけに生徒たちのことをよく理解してくれて優しく受け止めてくれたのだろう。「同じ舞台に立った仲間」とは口はばったいが、受け入れてくれた皆さんにただ感謝するばかりだ。
◆日本の歴史を肌で知る
この公演の脚本は石森史郎さん。日本一の脚本家といわれ「銀河鉄道999」や「青春デンデケデケデケ」の脚本などを手がけている。演出は鬼才といわれる品川能正さん。今、世界も注目する演出家だ。最終日のあいさつの中で、「明日からは中国公演です」という。体中がエネルギーで満ちているような人だ。この2人が学園をずっと応援してくれている。「何か役立つことがしたい」と口ぐせのように言い続けていてくれて、今回のこの企画が生まれた。物語は戦後間もない新宿。焼け跡となった町の中から人々が少しずつ生きる元気を取り戻して立ち上がっていく姿を描いている。戦争で家族や友人を失った人々。信じていた国や社会に裏切られ茫然自失の中から、少しずつ生きる力と勇気を見い出していく。乱れた秩序の中から信じられるものは何か。戦争の残した大きな負の遺産から活動を始めた人間のたくましさも描かれている。登場人物は、実在した人たちがモデルだという。ドタバタしながら、ユーモラスに元気で、明るい人物像は子どもたちにも楽しく映っただろう。「ほんとうに戦争があって、こんな日本が存在した。」このことを知りそれを疑似体験しただけでも大きな収穫だ。
◆花の持つ力 この物語の中で、デージーの花とタップダンスのもつ役割は大きかった。タップダンスの足音は不思議と勇気と元気が奮い立つ。焼け跡に咲くデージーの花からは安らぎと希望が生まれた。花や音楽の持つ大きな力は今も昔も変わらない。 私の知人は自らの足を運んで調査した事柄がある。最近起きた小中高生による凶悪事件の共通点を捜すというものだ。そのために事件直後の所属する学校を訪問し、更に数ヶ月後も訪問するという方法をとった。何かヒントがあればそれを見い出し、教育の指針にしたいという気持ちからだ。
- 平成9年5月。中3年男子の「酒鬼薔薇聖斗」による小6男児殺人事件。
- 平成15年7月。中1年男子が幼稚園児(4才)をスーパー屋上からつき落して殺害。
- 平成16年佐世保市の小6年女子による同級生殺人事件。
- 平成17年6月。板橋区で高1年生が父を鉄アレイで殴り殺す。
- 平成18年4月。岐阜県中津川市の高1年生が中2女子を絞殺。
こうした目を覆いたくなるような事件の生徒の在籍する学校には共通するいくつかの項目があることがわかった。その一つはそれらの全ての学校に“花”が無かったということだ。プランターやプラスチックの花器は残っていたところもあるが、花は枯れていたり、花はまったく残っていなかったという。もう一つは「4月から7月の初め」の間に事件は集中して発生しているということだ。
◆花も心も育てよう 花を植え育てれば問題や事件が起らないというものではない。花を育てて、“心にゆとり”を持つことが子どもたちや教職員たちにも大事なことなのだ。 新学期。新しい学校、新しい学年、不安と緊張で戸惑っている子どもたちの姿が浮かんでくる。この話をうかがったあとで、私はすぐに自分たちの学校の“花の点検”を行った。どこの校舎も花と緑が風に揺れていた。安心した。しかし揺れ動く不安定な思春期の子どもたちの新学期での対応はどうだろうか。子どもたちのニーズにしっかり対応できているのだろうか。課題はどこまでもつづく。前述の知人の結びはこうだった。「凶悪事件はほんの少しの思いやりや心配りで未然に防げたかも知れない」だった。
デージーの花に特別な思いを感じる夏になりそうだ。
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