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2008年4月
二つの学び。
学園長 荒井裕司

◆スーパードクター
 この4月2日、スーパードクターといわれる日野原重明さんが長野の生徒たちに特別授業をしにやって来てくれた。96歳をこえて、なお医者としての仕事をし、更に各地に講演に行き、原稿を書き、熱い夢に向っている。生徒たちに向っていくつか元気の出る話をしてくれた。  「さくら国際。いい名前だね。取り組みもまたすばらしいネ。“さくら”は日本人の心のふるさと。武士道の精神の象徴だからね。武士道というのは、礼儀正しく、潔く、清貧(お金に心を動かされず、正しい行いをすること)で信じたことに対しては、貫き通す心意気なんだよ。この学校が“そうした大事なものを育てることが目標”というんだから、私も応援しますよ。ところで、あなた方は17才、18才でしょ。悩みや辛いこといっぱいあるでしょ。そう、それはまだいろいろな経験をしていないから。私は96才。若い時は入院して死にそうにもなった。ありとあらゆる経験もしましたよ。でもこの96才でも、毎日、悩むこと辛いことばかりなんだよ。だから、あなた方が悩みや苦しみがいっぱいあるのはあたり前なんだよ。これを乗り越えていくのが、楽しいし、これが成長することなんだからネ。」そう言って生徒たちの中に入って優しく語りかけてくれて、思わず感激。生徒のみならず、「まだまだ若い」と言われた私達まで癒され、元気をもらった。

◆大惨事起こる!
 同じ4月の14日には、東京で21才の若者の話を聞いた。音楽を愛しているということで、一緒に歌も歌うことにもなった。3年前、大阪福知山線でJR史上最悪といわれる脱線死亡事故があった。この若者は、その先頭車両にのっていて、命をとりとめた2人のうちの1人だった。107名の死者を出したがそのほとんどが先頭車両に集中していた。当時の警察も救急隊も、そして放映をし始めたTV局も、まさか、マンションの駐車場の中に壊滅状態の車両が飛びこんでいるとは思わなかった。だから横転した2両目3両目のケガ人を救出していたという。そのうち、先頭車両の存在が見つかり救助が始まった。彼は山下君という大学生だった。朝、いつも通りに乗った電車で事故にあった。 突然電車が空をとび、倒れ、クラッシュした。何が何だかわからないまま、人が重なり合い地獄絵となった。「助けて」と叫ぶ声、悲鳴、泣き声にうめき声、この中で18時間とじ込められた。足と胴体は多くの人に押しつぶされて全く動かない。時間が経つにつれて、携帯電話が鳴り出す。“捜している!”そのうちだんだん人の声が聞こえなくなっていった。18時間後に2人だけが助けられた。一人は胴体切断となった。山下君も同じ状況だったが、医師に必死で訴え、壊死(えし。体の一部が死んでしまった状態)と闘いながら、足を残すことができた。だが、回復した今も松葉杖や杖を使わずには歩けない。18時間の間、どんな思いで、どんな状況だったかは、想像することもできない。救助されて、入院を続ける山下君を支え続けた母親や家族の愛情は何物にも代えがたいものだったにちがいない。

◆私たちはできるだろうか。
 この山下君は“運命の日”からほぼ3年間。命ということを改めて考えさせられ、家族や人の絆を再確認し、自分の中で、“生きる”ことはどういうことなのかを知ったという。病院関係者から音楽のすばらしさを教えてもらい、歌をうたった。好きな法律を学ぶことの目標もみえて来たという。いまわしい思いは決して脳裏から離れないはずなのに、この若者は実にすがすがしい。生徒の1人が質問した、「あの電車を運転していた運転手さんを恨まないですか?あの過密ダイヤでスピードを出させた会社に怒りはないですか?」と。「私は恨みません。運命のように私が体験したことが、いろいろな状況にある人に勇気や元気を与えることができるならば、全国、どこにでも行ってお話をしたり書物で伝えたりしたいです。」

◆それぞれの入学式
   今年も多くの入学式に参加した。子どもたちの入学式は、それぞれに新たなスタートであり、可能性が広がってくる。入学はしたものの、式に参加できない子どもたちもいる。慌てることはない。焦ることはない。ゆっくり自分を磨けばいい。でもみんなには日野原さんや山下君のような人間がいることを、どこかで知って欲しい。自分の悩みが思ったほど深刻でないことがわかってくる。それより何より勇気が湧いてくるはずだから。

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