東京国際学園高等部
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2008年7月・8月
モンスターペアレンツなんて言わせない…。
学園長 荒井裕司

◆息子を送り出す母は…。
 去る6月27日のスポーツ新聞紙上に胸のつまるような記事を見つけた。そこには現、日本相撲協会北の湖理事長の母テルコさんの亡くなったことと、その人柄とエピソードが紹介されていた。テルコさんは91才でその生涯を閉じた。男5人女3人の8人の子どもを育て、4男の理事長は7番目の子どもだったという。テルコさんは“怪童が北海道にいる”という噂が広まって、多くの相撲部屋からスカウトたちが押し寄せると、「気の優しいあの子に相撲なんかつとまらない」と最後まで入門を反対した。しかし本人が“どうしてもやりたい”という意志が強いため、しぶしぶ納得した。13才(中1年)で東京へ向う息子に対して、「強くなるまで絶対に帰って来てはいけない!」と涙ながらに送り出したという。

◆電報は間に合ったか?
  両国中学校に通学しながらケイコを重ねた北の湖はぐんぐんと力をつけ、21才2ヶ月の史上最年少の横綱になった。あまりの強さに「ふてぶてしい」とか「憎ったらしい」とか言われることもあった。しかし、少年時代から優しかった北の湖は、まずこの横綱昇進を母親に伝えた。「うん、ほんまに横綱になったんや、母ちゃん」電話の向こうでテルコさんは涙で声が出なかったにちがいない。横綱の母になっても、マスコミの前に出ることもなく、ずっとうしろから応援し続けていたという。
 私達の学園は、北の湖理事長や部屋の力士たちにお世話になって来たし、仲がいい。子どもたちが朝ゲイコを見学に行き、チャンコを食べさせてもらったり、入学式に来てもらったりもした。こわ面ての理事長だが、本当に心の優しい人で、私達は多くの場面でそれを知っていた。
 この記事を読んで、私は胸が熱くなり、早速に電報を打とうと考えた。ところが偶然にも出た電報局員は北海道の人だった。「東京の相撲部屋よりも、北海道の実家にお送りしてはどうですか?…今日は通夜のようですから…」全部調べてくれての助言だった。『13才という若い息子を東京に行かせた、当時の故テルコさんの思いは、いかばかりだったでしょうか。涙をかくして息子の成長を願った母親の決意は、今の私達や親たちの子育ての手本です。また母親の気持ちに応えた理事長の強さと優しさに敬服しながら、心よりご冥福をお祈り申し上げます』私は少々長めの電報を打った。

◆父の恋人、母の恋人。
 私のところに相談にやってくる母親たちは一様に「男の子の気持ちがわからない」と云う。そんな時に私は、「そりゃ、わからないと思いますよ」とか「無理でしょう」とか「男の側からすると、『わかってたまるか』というとこでしょうね」、と言ってしまう。逆に父親も娘のことがなかなかわからないのだろうと思う。決定的なのは性がちがうことだといえる。どう考えても自分たちが持ち合わせていない種類の感情や場面は推測するしかないからだ。ある母親は、娘しかいない仲の良い友人に、「あなたは可愛そうネ。男の子のかわいさを知らなくて…」「ほんとうに言葉に表せないかわいさなのよ」と言ってのろける(・・・・)という。母親にとって男の子は理想の恋人のようなものなのだろう。父親が娘にかける思いも同じようなものだ。知人は娘と子どもの時から嫁にいくまで、外出時はいつでも手をつないで歩いたという。これは特にまれなケースで、普通は思春期になると娘は父親を全く寄せつけず、毛嫌いするようになる。男の子も、ベタベタ近づく母親に対して業を煮やした結果、「うるせーな、このクソババア」となったりする。息子も娘も自我の目覚めで自立の一歩を進みはじめた証拠なのだ。「成長の証(あかし)」とか「嬉しいこと」と考えたら腹の虫も少しはおさまる。

◆命に代えても。
 つい先日起きた川口市の中3年女子生徒の父親殺害事件はショックだった。娘のことは目の中に入れても痛くないと思っている父親たちにとって、突然の殺傷には言葉が出て来ない。「なぜ?」「どうして?」だけが空まわりする。こうした子どもたちが家族を殺傷するという「信じられない事件」が多すぎる。世界が奇異の目で日本を見始めている。  Sさんは今年で47才。突然、末期ガンの宣告をうけた。2人の娘は2人ともようやく成人式を迎えたが、家に引きこもりがちだった。余命あと数ヶ月という時、娘を呼んで、事実を伝えた。「私はもうあなた方の支援はできなくなりました。私のいなくなったあと、あなた方は自分で生きていくことになります。でも、その予行演習を私の生きているうちにして下さい。」意を決し涙ながらの説得に2人は信じられないような動きを始めた。一人はアルバイトで働き出し、一人は自立支援の施設に入所した。「私、たった1日でも耐えられないと思う!」「私、気が狂うかも…」そう言っていた娘たちも一歩前に歩み出し自分と闘いながら、現在も動き続けている。 「私の最後にできることは、命に代えても子どもたちを自立させることです。」涙いっぱいためながら病床の母親は満足そうな顔を見せた。  子どもたちよ、親たちの底なしの愛情と思いを受けとめて欲しい。理事長の母テルコさんもきっと「そうだそうだ」とうなずいてくれるにちがいない。

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